素材そのものの良さを最大限に引き出し、愛でる

「鉄」という金属を用いて作られる刃物は世界中に存在するでしょう。しかし、鉄を愛し、手をかけ、文化にまで高めたのは「日本刀」だけと言っても過言ではないでしょう。ヨーロッパでは「金」「銀」「銅」が大切にされ、鉄は卑しいとされているようですが、私たち日本人は古来より「鉄」を愛し、自在に調整し、鍛え、目的に沿った素材として有効活用してきたと言えるでしょう。鉄を磨き上げ、鉄そのものの美しさを鑑賞する日本刀は、日本人の「自然に生まれた特性を尊重する」という精神性から生まれた文化とも呼べるでしょう。

どんな金属でも、表面を磨くと何か模様が出るということをご存知でしょうか。例えば、ドアノブ

をよく見て見ましょう。普段は意識していないでしょうが、微かに模様が見えていると思います。このように、日本刀も表面を鍛錬・焼入れすれば、自然に模様が出てくると言います。それを意識し、肌文様を強調して名付けられたのが「板目」「柾目」「杢目」と呼ばれています。

室町末期から桃山時代には、呼ばれていたようで、各表現が整理され、鉄の色合いの表現も少なくなっていったようです。これは、名刀を持つ武士層の変化によるものと予想されています。戦国時代末期、武士たちは、家の格式を重んじるため、家宝として名刀を所持する必要があったようです。そのため、新興武土層が新たに名刀を購入するには、鑑定家の判断に頼る他なかったため「鑑定」が盛んになり、地肌の文様の名称も用いられるようになったと言われています。

日本刀の鑑賞にあたり、自然にあらわれた地肌の模様に名称をつけ、その面白さを愛でる美意識、また、鉄という素材の美しきを一心に見出そうとしたわが民族の特性に敬意を払わざるを得ないでしょう。